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イギリスへの愛がショート寸前。

『憂国のモリアーティ』のシャーロックホームズ、リアムギャラガー説

注:この記事には漫画14巻までのネタバレが含まれますが、作品鑑賞に支障をきたさない程度になるように善処してはいます。

 
 
フェスも来日ライブも去年から潰れまくってるけど今日もなんとか生きてるUKロックオタクの皆さま、そうでない皆さまも、ジャンプSQにて連載中の漫画『憂国のモリアーティ』をご存知でしょうか。アニメも2020年〜21年現在、分割2クールで放映されています。舞台やミュージカルなどメディアミックスも盛んな作品です。
 
 
この漫画、シャーロックホームズシリーズのパスティーシュなのですが、シャーロキアンだけでなく、UKロックファンが読むべき漫画大賞受賞しています。そんなものはないんですが。
が、インターネッツの海を見渡す限りだと、もしかするとUKロックのファンは一人も読んでないのかもしれない・・・(早計)(ちなみにホームズものだからなのかSNSだと体感もはや海外ファンの方が多い)。この超絶ミスマッチを解消すべく、この作品のどこがどうUKロックなのかを出来る限りで伝えようと思います。
 
 
ということで、
筆者のセイウチ1(UKロックオタク・『憂国の〜』既刊読破済、ホームズはあまり触れて来ずこれを機に勉強中)が、
もう一人のブログ管理人・セイウチ2(UKロックオタク・ホームズシリーズの昔からのオタク)に『憂国の〜』を紹介するという体裁で、以下進めます。
 
 
まず最初にざっくりofざっくりの作品説明としては、イギリスの誇るベストセラー、シャーロック・ホームズシリーズにおいて主人公ホームズと敵対する犯罪者モリアーティ教授を視点に据え、階級制度をテーマにしたブリテッシュ必殺仕事人みたいな感じです。
 
セイウチ2:(アニメの粗筋一覧を見て)ちょっと待ってジェントリのダドリーって書いてある。世界史のヨーマンとジェントリじゃん。こんなの嫌いな訳ないじゃん。ジェントリのダドリー、韻踏んでるし。
 
 
ロックンロール誕生以前の英国が舞台ですが、イギリスにおいては階級や貧富の差がロックの発展に大いに関わっているので、その辺りを踏まえるとオタクとしても興味深いと思います。
例えば有名どころでは、リバプールの労働者階級出身であったビートルズが女王陛下に謁見するほどにのし上がり、階級制度に大きな一撃を加えたこと。また、オアシスvsブラーがワーキングクラスvsアッパーミドルクラスの代理戦争と呼ばれていたこと。ロック民のこういった知識は『憂国の〜』を鑑賞するのにかなり直接、明確に効いてきます。
 
 
 
ここからが本題です。主人公ウィリアム・ジェームズ・モリアーティは色々あって貴族の家の次男として数学教授をしているので、物腰柔らかで丁寧な言葉遣いをします。上流なのでおそらく主人公三兄弟当たり前にクイーンズイングリッシュ。貴族打倒物語なのに。出てこないのかな、労働者階級っぽいネームドキャラは……と思っていたら2巻(アニメでは6話)でやっぱり出てくるんですよ、典型的なブリカスチンピラが
 
「おいおい皆また分かんねぇのか?簡単だろ」「は?明らかだろ」「おめでてーなお前ら」
とか言いながら突然出現したこのチンピラ、いかにも重要人物ヅラをして主人公に絡んできます。そして「明らか」を連呼しながら勝手に推理を始め、死体を観察して面白いとか発言する・・・
そう。こちらもそろそろ推理出来たと思います。このブリカスチンピラこそ、この漫画のシャーロック・ホームズです。
 
セイウチ2:このホームズ、ギャラガー兄弟の和訳記事みたいな喋り方してるんだけど。この第一声、「D'you know what I mean?」でしょ。こちとら親の顔よりオアシスの記事読み漁ってるんだから分かるよ。
 
ギャラガー兄弟とは、ロックバンドOasisの中心メンバー・ノエルギャラガー&リアムギャラガー兄弟のこと。天才的な口の悪さとイギリス人らしい皮肉精神がチャームポイント。兄弟喧嘩でバンド解散したまま口をきかず10年以上経過中。いいから早く仲直りして。名言集はそこらでまとめられているので検索して頂くのが早いですが、セイウチ選だと、下記のあたりは特に好きです。
 
「薬物摂取のオリンピックがあったら俺は腐るほど金メダルを取れる」(兄ノエル)
「今フジロックの楽屋だ。すげー蒸し暑い。変な虫も飛んでるしな。今夜のステージでもコイツらにイラつくだろうな」(兄ノエル)
「シリアルにコカインかけて食ってた」(弟リアム)
ビートルズピストルズ、オアシス、以下ゴミ」(弟リアム)

 

また、ホームズといえば相棒ジョン・H・ワトソン。今までホームズに触れたことのなかったセイウチ1でも知っていたワトソン、作品内では「ジョン」呼びに変更されています。(※現代版設定のBBCシャーロックでもジョン。)ギャラガー語を喋る薬物依存のこのシャーロック、さらに遭遇2度目にしていきなりウィリアムのことを「リアム」と呼びだします。
いやジョンとリアムで薬物依存って。その特徴はもうUKロックなのよ。
 
セイウチ2:ヤク中と楽器(バイオリン)はコナンドイル正典通りなんだけどね。
セイウチ1:どちらもUKロックに欠かせない要素ですよね。このシャーロックイライラして弦バツンって切ってバイオリン投げてるし。楽器破壊は全オアシスファンのトラウマだから辞めて。
 
 
そしてシャーロックの登場と同時に狙ったかのようにブチ込まれる巻末のアビーロードパロディ。
(漫画2巻巻末、モリアーティ三兄弟が例の横断歩道を渡っているようにしか見えないオマケ絵。この時代には自動車がないので省かれていますが、そもそも横断歩道がないだろ!つまりこれは意図的なアビーロード。Obvious。)
セイウチ1:まあ100歩譲ってイギリスの有名ポップアイコンなので特に意識した訳ではないというセンもあるんですが…これ、逆にアビロじゃないってケースあります?
セイウチ2:私たちはこの横断歩道がAbbey Roadのジャケットを示す世界線に住んでる。これがアビロパロじゃなかったら俺は動くよ?(さっきからごめんミルクボーイ)
 
 
まだあります。正典からシャーロックホームズにはマイクロフトという優秀な兄がいるんですが、初めての兄弟シーン(5巻・アニメだと12話)は、物理的なファイト(戯れ)・弟の「クソ兄貴」「死ね!!!」・兄が口で完全に言い負かす、の欲張りセットでお届けされます。
 
セイウチ2:イケ化したギャラガー兄弟かな?
セイウチ1:ここのシャーロック、弟っぷりがリアムギャラガーさん完コピ。イケ色男キャラデザのリアム。まあリアム本人も気怠げな魅力のあるタイプだが…。ちょっと一回後ろで手を組んでみてもらっていいですか?
 
 
やっぱりこのシャーロックはノエルかリアムかで言ったらリアムか……。犯罪卿リアムのことを追いかけてるリアムっぽい探偵……リアムが渋滞してるんですけど。ウィリアム・ジェームズ・モリアーティが自らを終わらせる話って、そういうこと?(名探偵の絵文字)
 
 
物語が進んでシャーロックがウィリアムのプロファイリングを固めていくのと同時進行で、UKロックオタクは「これ敬虔なオアシスファンの先生が描いてるってセンは……?」と脳が自動的に謎プロファイリングをはじめることになります。
 
 
あと、2021年春現在最新の14巻なんですけど、文脈は伏せますが、超絶大事なところでシャーロックがリアムギャラガーさんの最新アルバムの名前(の半分)をわざわざ英語表記で言ってるんですが、
 
(※ こっちはネタバレしても問題ないのでしますが、リアムの2ndアルバムタイトル「Why me? Why not.」は、ジョンレノンの描いた二点の絵画「Why me?」と「Why not.」から取ったものです。絵画自体もジョン→リアムに受け継がれています。漫画のこのセリフに至るまでの流れも・・・)
 
すみません、これはUKロック知覚過敏ですか?もう分からん。決定的な証拠だけがないんですが、作者の方々サイドがUKロックを知らない可能性ってあとどれだけ残ってますか?てか残ってますか?
もうこっちはダメだ。全てが伏線に見えてくる。「全ての悪魔を消し去る」というウィリアムの台詞が悪魔・・・悪魔・・・デーモン!?やっぱりリアムの敵はデーモンアルバーン!?!?(脳内で勝手にウーフゥ↑し出すSong2)ってくらい駄目。張り巡らされたUKロックの緋色の糸で大縄跳びさせられてる気分。ある意味、高度なシャーロックホームズ追体験が出来てる説すらある。じゃあせっかくなら漫画の中だけでも兄弟仲良くしてくださいお願いします。
 
 
 
いかがでしょうか。UKロックオタクが読むとここまで本筋と別文脈でも狂い楽しめるということが少しでも伝わったでしょうか。逆にネタバレを防ぐあまり、UKロックオタク以外には何も伝わらない文章になってしまったんですけど。
もちろん物語自体もめちゃくちゃ面白く、全編に渡って繊細で美しい作画で描かれています。他にも007やシェイクスピアなど、イギリス文化のオマージュが大量に出てきます。上でも書いたように、イギリスの歴史・文化や階級制度に関する知識があるとより楽しめるので、ロック民はただでさえ有利(有利?)です。今のところジャンプ+でだいたいいつも1巻分は無料で読めるので、是非読みはじめて一緒にUKロック探偵になりませんか?
 
 
蛇足ですが、これを書いている途中でノエルギャラガーニキ本人が日本のファンに「This is Noel Gallagher, obviously.」って動画メッセージ投稿してきてあまりのタイムリーさに笑い死ぬかと思いました。